大阪高等裁判所 昭和42年(行コ)5号 判決 1976年7月16日
大阪市都島区大東町一丁目一九番地
控訴人(両事件)
奥村勘三
右訴訟代理人弁護士
仲重信吉
同市旭区大宮五丁目
被控訴人(両事件)
旭税務署長 大槻喜睦
同市東区大手前之町
被控訴人(昭和四二年(行コ)第五号事件)
大阪国税局長
徳田博美
両事件につき、右両名指定代理人
岡崎真喜次
渡辺春雄
瀬戸章平
石川智
住永満
昭和四九年(行コ)第四二号事件につき、旭税務署長指定代理人
岸田富治郎
吉田秀夫
祖家孝志
右当事者間の更正決定裁決取消請求事件につき、原審がした昭和四二年一月一二日言渡の判決(以下これを第一原判決という。)および昭和四九年六月一三日言渡の判決(以下これを第二原判決という。)に対し、それぞれ控訴の申立があったので、当裁判所は併合審理して次のとおり判決する。
主文
本件控訴をいずれも棄却する。
控訴費用はいずれも控訴人の負担とする。
事実
第一、当事者双方の申立
(控訴代理人)
一、昭和四二年(行コ)第五号事件につき
第一原判決を取消す。
被控訴人旭税務署長が、控訴人の昭和三七年分所得税につき、昭和三九年九月八日付でした課税所得金額を金二、八〇六、五〇四円、所得税額を金六二二、〇二〇円(増額差五六八、三二〇円)とする更正決定ならびに過少申告加算税金二八、四〇〇円の賦課決定処分はいずれも取消す。
被控訴人大阪国税局長が、右処分に対する審査請求につき、昭和四〇年一〇月二六日付でこれを却下した裁決を取消す。
二、昭和四九年(行コ)第四二号事件につき
第二原判決を取消す。
被控訴人旭税務署長が、控訴人の昭和三八年分所得税につき、昭和三九年九月八日付でした所得金額を金二、四九六、〇〇〇円とする決定処分を取消す。
三、訴訟費用は第一、二審とも被控訴人らの負担とする。
(被控訴人ら)
主文同旨。
第二、当事者らの主張、立証は、別紙当審における控訴代理人の主張を付加するほか、第一、第二原判決事実摘示のとおりであるからこれを引用する。
理由
一、控訴人の請求は、(1)被控訴人旭税務署長に対する昭和三七年分の所得税更正決定並びに過少申告加算税賦課処分の取消を求める請求、(2)被控訴人大阪国税局長に対する右処分についての審査裁決処分の取消を求める請求、(3)被控訴人旭税務署長に対する昭和三八年分の所得税決定処分の取消を求める請求とから成っているが、当裁判所も右(1)の請求はその訴が不適法として却下を免れず、(2)および(3)の請求はいずれも理由がないと判断するものであって、その理由は、右(1)と(2)の請求については第一原判決の理由と同一であり、右(3)の請求については、当審における控訴代理人の主張に対する判断を左に付加するほか、第二原判決の理由と同一であるから、右第一、第二原判決理由をここに引用する。
二、当審における控訴代理人の主張について。(なお、この項で原判決とは第二原判決を指す。)
(一) 控訴人の主張は要するに、(1)控訴人は原審において売上原価率を〇・八五と自認したが、それは、原判決別表一の雑収入の大部分を占めるリベート分金九四万七、二七三円については、実際はこれを仕入金額から差引いて支払っていたので、右リベート分を差引いた金額を実質売上原価と考えて、それと販売収入との対比が〇・八五位と陳述したものであるが、原判決別表一の様に、右リベートを差引かない金額を売上原価に採用し、リベート分を雑収入に計上するのならば、売上原価率はもっと高い数値とならなければ、正しい販売収入は算出できない。(2)むしろ、リベート分はこれを雑収入に算入しないとともに、売上原価も同表記載の金額からリベート分を控除した金額とするときには、売上原価率も〇・八五位にすることが許される。」という趣旨と把握できる。
(二) しかし、本件において、推計によらなければ控訴人の所得を把握し難いことは控訴人が原審でも自認していたところである。そして、原判決が採用し、当裁判所もそれによることを相当と判断する推定売上原価率は、控訴人の陳述によるものではなく、他の同業者の実績の平均値によるものであるから、原審における控訴人の売上原価率の主張に、上記の様な誤解が存したとしても、それは当裁判所の判断に何ら影響を及ぼすものではない。またリベートに関し、控訴人と仕入先との間で主張の様な相殺勘定が行われたのが現実であるとしても、損益計算上、右リベート分を含む金額をひとまず売上原価(仕入、即ち損金)に計上し、リベート相当分は雑収入(即ち益金)に計上しても、その結論に影響を及ぼすものではなく、推計上の合理性を害するものではない。
(三) 問題は、原判決別表一における控訴人の売上原価および雑収入の構成と、別表二における原価率算定の基礎となる差益金額を算定するために用いられた売上原価および雑収入の構成とが同様に把握されているかどうかであり、その点に齟齬があれば、別表二で算出した原価率を控訴人の場合に適用できなくなることはいう迄もない。
しかし、弁論の全趣旨によると、控訴人が原審で自認した売上原価(仕入金額)は、リベート控除前の金額としてこれを自認したものと認められるし、原判決理由どおりに成立の認められる乙第一二ないし第一九号証によると、別表二の同業者らの所得申告損益計算においても、その売上原価にはひとまずリベート分を含み、リベート分は別に雑収入に計上する方式が採られていることが認められるから、右同業者らの実績から割り出した売上原価率を控訴人に適用することは何ら合理性を欠くものではない。
(四) しかして、仮に控訴代理人主張の様に、売上原価を仕入金額からリベート分を差引いた実支払額とし、リベート分を雑収入にも計上しない方式が正しいとしても、その場合には、推計に用いる対照同業者の損益計算についても、同様の方式を用いて売上原価を把握すべきであり、その場合平均売上原価率はより低率となってしまうのであるから、売上原価率を推計によって押えざるを得ない本件において、控訴人の主張は必ずしも、その結果を著しく左右するものといえず、原判決採用の算定方式が合理性を欠くものではない。
(五) よって、控訴代理人の主張は採用することはできない。
三、よって、本件各控訴はいずれも理由がないので、民訴法三八四条、八九条を適用して主文のとおり判決する。
(裁判長裁判官 本井巽 裁判官 坂上弘 裁判官 潮久郎)
(当審における控訴代理人の主張)
一、原判決(第二原判決を指す。以下同じ。)は控訴人の主張を正確に理解していない。
原判決は事実摘示の中で(第二の四)、控訴人の答弁として、売上原価に対する〇・八五の売上原価率で計算した収入の外に、雑収入一、二七三、六九九円をプラスしたものを所得金額として控訴人が主張しているかのように判示しているが(別表一参照)、これは誤っている。
控訴人の主張するところは、右雑収入も含めた全体の収入金額が、売上原価との対比でみるならば売上原価率〇・八五を下まわるとは考えられないというにある(控訴人の右主張は、被控訴人の原審第四準備書面に対応してなされたものである。)
二、被控訴人主張の雑収入とは(1)月賦販売手数料および(2)受取リベートであるが(被控訴人の原審第七準備書面)、(1)はたしかに実額で控訴人が受取るもので収入になるが、(2)は計算上のものであって、現実に受取るものではなく、仕入金額からあらかじめ控除されているものである。
この点を原判決は誤解している。